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微小粒子状物質(PM2.5) – 秤量編

測定機器編でもご紹介しましたが、PM2.5の標準測定法として ろ過捕集-質量測定法(フィルタ法)が採用されます。欧州を含む諸外国においても、米国EPAの連邦標準測定法(Federal Reference Method,FRM)に準じたフィルタ法が標準測定法として用いられています。標準測定法はサンプリング機器、フィルタの材質など細かく条件が定められていますが、今回はその中で、フィルタの秤量について注目したいと思います。

◎標準測定法の秤量条件

秤量の際には、フィルタをある条件下において恒量とすること(コンディショニング)が必要となります。これは、一定の条件で秤量を行うことで再現性を高める必要があるからです。
秤量イメージ PM2.5標準測定法のコンディショニング条件は「温度21.5±1.5℃、相対湿度35±5%とし、コンディショニング時間は24時間以上とする」となっています。日本の環境基準項目であるSPMの秤量条件と大きく違うのは相対湿度です。SPMではコンディショニング条件は相対湿度50%とされていました。ですが、PM2.5では水分影響を受けやすい、という理由から、50%より再現性の高い35±5%が採用されました。米国のFRMでも30 – 40%となっています。
また、秤量に用いる天秤の感度は1μg感量のものを用いることとされています。実際のフィルタ上に捕集されるPM2.5の質量は、フィルタ法の測定濃度下限値の場合で50μg程度です。この50μgの質量を測定する精度を確保するために1μg感量の天秤を使用することが必要となります。

※ フィルタ法の測定濃度下限値の場合で50μg程度とは
フィルタ法の測定濃度範囲は2μg/m3 – 200μg/m3です。FRMに準拠したサンプラで捕集を行った場合、吸引量は1m3/hで24時間捕集ですから下限値の2μg/m3で捕集されるPM2.5の量は48μgということになります。

◎PM2.5はなぜ水分影響を受けやすいのか

先ほど、PM2.5は水分影響を受けやすいので秤量のコンディショニング条件の相対湿度が35%となったといいましたが、なぜPM2.5は水分影響を受けやすいのでしょうか。
それはPM2.5中に含まれる成分が関係しています。
PM2.5は主に燃焼過程で発生した成分や、大気中の反応性の高いガス状成分から光化学反応等で二次的に生成した様々な成分から成っています。この成分の中には水可溶性が高く、吸湿性、潮解性をもつ粒子も多く存在します。ですからコンディショニングの湿度条件によって粒子の状態が変化することが予想されます。また、潮解性をもつ成分(硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化ナトリウム等)を多く含んでいる場合、ヒステリシスの効果の影響を受けることがあります。

◎ヒステリシス効果とは

コンディショニング条件の相対湿度が上がればフィルタの質量(PM2.5質量)も増える、というのが一般的なイメージだと思います。しかし、そうはならないのがヒステリシス効果です。ヒステリシス効果というのはフィルタのコンディショニングの条件や、サンプリング、輸送等の湿度変化の履歴によってフィルタ質量が可逆的に増減せず、同じフィルタ、同じ湿度条件でも秤量値が一致しない現象を指します。
 硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化ナトリウムはそれぞれ相対湿度80%、62%、75%付近で潮解するとされています。一度潮解すると粒子が水分を内包するため、相対湿度を下げていっても50%程度では蒸発せず、35%程度まで下げるとようやく蒸発することになります。この状態から今度は相対湿度を上げていっても50%程度では潮解が起こりません。そのため最初の50%のときと後の50%のときでは秤量値が異なってしまうのです(図 参照)

グラフ
図 相対湿度(RH)の変化とPM2.5質量濃度測定値の関係

大気中微小粒子状物質(PM2.5)測定方法暫定マニュアル 改定版 第4章より引用
RH30%付近で測定した(1)から徐々にRHを上げてRH80%の(4)まで測定した後、RHを下げてRH20%付近の(8)まで順に測定を行っているが、同じRH60%付近でも(3)と(5)で差が生じているのがわかる。

粒子の吸湿性、潮解性が秤量値に与える影響を定量的に求めるというのは大変難しいとされています。ですから粒子の吸湿性、潮解性の影響を極力避けるために、再現性の高い35%で秤量をするという条件が規定されることになりました。

◎湿度35%の秤量室

これまでSPMでは相対湿度50%という秤量条件でしたので、おそらく、相対湿度35±5%という秤量条件に対応できる施設は国内ではまだ少ないと思われます。弊社ではいち早くこの施設を設置し(2000年に設置)、PM2.5の秤量体制を整えております(余談ですが相対湿度35%というのは低湿度なため、コントロールが大変難しく、特に高温多湿になる夏季には注意が必要です)。秤量を適切に行えるよう、クリーンルーム(クラス1000)としているほか、秤量フィルタの帯電影響を除去するための除電イオナイザーも完備しております。

【参考文献】

中央環境審議会大気環境部会微小粒子状物質測定法専門委員会報告
大気中微小粒子状物質(PM2.5)測定方法暫定マニュアル 改定版

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